名前

≫きれいなあなたに名前をつけて
≫これから始まる新しい日々
≫波のない静かな海
≫穏やかなこの気持ち
             『テレパシー』/斉藤和義・35STONES

この曲を初めて聴いたとき
彼自身が何か愛しいものに
名前をつけた事があるんだろうと思った

私にも覚えがある この気持ち

名前の無かったものがある時から名前を持つのは
誰かと共に生きてくことのはじまりだと思う
一人なら名前なんていらない
名前は自分を表すモノなのに
自分以外の者のためにある

こどもが宿ったとき
生まれてくる前から名前は決めていた

男の子だったらカタカナで
女の子だったらひらがなで




《なぎという名前》

古くからある言葉『なぎ』
波のない穏やかな海の様子
この『なぎ』は
風の中に止まると書いて『凪』

魚市場でアルバイトしてた時
『ないどったから(凪だったから)荷は多いんやぞ!
(=海が荒れてないから豊漁だった)    
はよ、せんかいや〜!』と親方の声がひびく

積み上げられたトロ箱
魚の山の間を走り回る
活気づく市場の空気

そして
もうひとつの『ナギ』は『薙』
当時、仲間とやっていた焼畑という古くからの農法
この焼畑のことを
白山麓のこの地方では『ナギ畑』と言ってた
ナギ畑の最初の作業は
焼畑にする斜面にある立ち木や草を薙ぎはらうことから始まる
ナギ畑の名前はここから来てるんだろう


火入れをし
まだ土に熱のあるうちに
アワやヒエの種をまく
秋にはアワとヒエの穂の黄金色で
山の斜面が波打つ

わたしたちにとって
『なぎ』という言葉には『ゆたかな恵み』のイメージがある
人が海や山に踏み入って汗かいて手に入れることのできる『恵み』
ぼんやり眺めていて手に入るものじゃないところがいいな‥と

お腹にいる子どもにこの名前で
話しかけていた

この子がこの世に生まれ出たとき
目の前のほやほやの命は名前がついていた

‥名前付けといて良かったなと思った
付けた名前がこの子の最初の『カタチ』


この世の中
腑に落ちないことだらけ

子どもを
こんな世の中に生み出しちゃっていいんかしらと考えると
妊娠することが怖かった
でも…
ヒトだけだよね
そんなとこで悩むのは‥と思ったら、まっ、いいか〜っと‥。
ここだって悪いことばかりじゃないからサ…っと。

この名前
恵み豊かであれという願いと
色々大変だろうけど、頑張りなよ‥という気持ちも込めたつもり

わたしたちがしてやれることは
きっとそんなに多くない

あの時私が『まっ、いいか』と飛び越してしまったのは
いいことだったのか マズかったのかは
分からない
でも
まっいいか〜のおかげで今、傍で笑ってる
ひらがなの『なぎ』はもうすぐ14才
彼女の笑顔は光ってる




《言葉が無くても》

彼女がまだ言葉を知らない頃
今より色々話しかけた
彼女が返してくれるのは
小さな全身で

泣く
笑う
見つめる
‥それくらい

眠っていても
彼女の『カタチ』を感じるのに
私はいそがしかった

寝息の音
息の匂い
肌にふれたときの温かさ
握った手のきれいな赤さ
クルクル巻いた細い髪の感触
抱き上げたときの重さ

目を覚ませば
彼女はそのたびに
新しかった


14才になった彼女とたくさん話してるのに
言葉のない頃ほど
彼女のこころは
伝わってはこない
言葉にならない部分を
見えないまま通り過ぎてるのかな

そのうち
ここから巣立つだろう彼女は
これから
どんなものを
手に入れたり手放したりしていくのだろう

『なぎ』という名前を
愛しんで呼んでくれる人達との出会いを願ってる
by siriki-otona | 2008-03-20 02:59 | ハナシのはなし
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